ある文官の記録
あの混乱、あの狂気
後の世は、百年に一度…いいや、この悠久に続くサロニアの歴史の中
一千年に一度の凶事であったと判ずるだろう
これは、後の世に残す文書を作成するため
私的に収集した、いくつかの要素である
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飛空艇技師の発言
僕以外みんな見てないっていうけど、確かに見たんだよ
なんか王様の命令で、僕たち一か所に固まってるように言われてさ
みんなして廊下とぼとぼ歩いてたんだけど
僕、他のみんなから少し遅れちゃって
ううん、でも、だから僕だけ見れたのかなあ
小型の飛空艇が、戦場の上にやってきたんだ
面白い艇だったよ、脚が付いてないんだ
どうやって着陸するんだろ?危ないよねえ
え?うーんと、それで、戦場から大砲で撃たれて落ちちゃったんだ
味方同士で戦い始めてからずっと、凄い音たくさんしてたから
みんな気付かなかったみたいだけど、ほんとに見たんだ
さっき落ちたところに行ったら、穴しか空いてなかったけど
あれって、あの夜雷が落ちたあたりだってほんと?
地面まで穴空けちゃうって普通じゃないよねえ、それに…
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南西街工業地区、工員の発言
ああ、白状すりゃあ、あん時はナイトくずれの身に感謝したぜ
軍隊二つに割って味方同士で殺し合いなんてよ…正気の沙汰じゃねえよ
街でも、誰も彼もピリピリしてて、どっかイカれてたんだよなあ
酒場にまで、自分を王子だとか言い出すガキが現れる始末
いくらガキだって、戒厳令の真っ最中に王子カタっちゃやべえだろ
ちょっとその辺分からせてやろうかと、仲間と一緒にからかってやったら
変な四人組に邪魔されちまうし
しかもあのガキ共…あーと、四人組もまあガキって歳だったんだ、
あっさり王子モドキに騙されて付いて行っちまったし
…は?なに?本物?
アルス王???
ひえええええちょっと待った、今のうそ!ウソだって!!
カンベンしてちょー!!!
***
北東街商業地区、武器商人の発言
武器屋が武器売ってなにが悪い!
ニセ王の命令なんぞ聞けるかってんだ
あア?ニセモノに決まってらあ、
だから城の使いだっていうナイトだって、俺をしょっぴけなかっただろう?
トリ退治には槍がいるんだよ
トリだよトリ、街じゃあ噂になってたさ
城にトリが巣を作って、居座っちまったって
だから王様も…
……
何?アホかお前、サロニアでトリっつったら、アレしかいねえだろうが
伝説のアレだ
それを退治するってんなら、竜騎士しかいねえじゃねえか
でもみんな、城の庭での殺し合いに駆り出されてて
…それでも、抜け出せるくらいヤリ手の奴だったら、きっと…
そう思って、いつでも売れるように毎日商品磨いてたんだ
そしたらなあ…来たのさ
追放された王子様がな
間違いねえ、いっぺん見た事あるんだ、城に武器仕入れた時にな
連れて来なすったさ
ちっと若いカンジだったが、竜騎士を四人も
ウチの武器が、トリをぶち倒したんだ!
…それならタダで譲ればいいのにって?
うるせえ、武器屋が武器売って何が悪い!!
***
戦場の夜、竜騎士兵(目撃者多数につき、任意で抽出)
さすがに夜は休戦さ、身が保たんよ
あの夜、俺は見張りに立っていた
夜空に三日月がかかってて…
俺達を見下ろしてニヤニヤ笑ってるように見える、薄気味悪い赤色をしてた
雨の気配など、微塵もなかったんだ
それがいきなりだ、雲が立ちこめて月どころか星一つ見えなくなったと思ったら
一発、稲妻が城に落ちたんだ
連日の戦いで、疲れ果てて寝こけてた連中、みんな叩き起こされた
なにしろ、城の天井にキレイに穴を開けるほどの稲妻だ
何事かと揃って城に注目した時だ、何か豆粒のようなものが
多分天井の穴から飛び出してきた
俺の部隊がいた位置は、城からは割と離れてたが、不思議とはっきり見えた…
雷雲の中に溜まる光しかない闇夜なのに、見えたんだ
最初はトリのように見えて身構えてしまったが
…戦場で、ずっと噂になっていたアレが、とうとう本性を現したと…
しかし豆粒のような影の、羽根のように見えたものはマントだった
伝説にある、俺ら竜騎士の祖と共に戦った竜の、銀に翻る翼を模したもの…
そいつは何かを抱え、庇っているようだった
その何かを確認しようと身を乗り出した直後だ、
けたたましい鳴き声と共に
豆粒をか、そいつが庇ってる何かをか、
どちらかは分からんが追うようにして出てきたんだ
サロニア人なら知らん奴はいない、
アレは、あれは…
***
玉音
戦場だけではありません
命を賭して戦ってくれた彼らに対し不謹慎だったでしょうが、
彼らに庇われて舞った空で、私は街の明かりが増えてゆくのを見ました
雷雲に隠れた夜空の星に代わって地上に現れた星ぼし、
あの明かりの下、この国の者たち皆が…新たな伝説を目の当たりにしたのです
怪鳥ガルーダと竜騎士の…いいえ、
光の戦士たちがもたらした、希望の一幕を…